国枝史郎「二人町奴」(03) (ふたりまちやっこ)

国枝史郎「二人町奴」(03)



 気を奪われた浪人組、互いに顔を見合わせたが、そこは老功の与左衛門である。けっく[#「けっく」に傍点]幸いと考えた。
「こいつはいっそ[#「いっそ」に傍点]任せてしまえ」
 そこで抜身をダラリと下げ、ツト進み出ると、云ったものである。
「これはこれは弥左衛門殿か、お名前はとうから存じて居ります。争いの仲裁まずお礼、いや何原因も知れたことで、折れ合おうとすれば折り合います。またお顔を立てようとなら、無理にも折り合わなければなりますまい。それにしても実に大力無双、殊には裸体で突っ立たれたご様子、洵《まこと》に洵に立派なもので、そういうお方にお任せし、事を穏便に治めるは、我々にとっても光栄というもの、但し果して深見氏の方で」
 すると十三郎もズット出た。
「いや拙者とて同じでござる。弥左衛門殿のお扱いなら、なんの不足がございましょう。白柄組とか吉弥組とか、旗本奴の扱いなら、とかく何かと言っても見たいが、長兵衛殿のお身内なら、我々にとってはむしろ味方、弥左衛門殿のご高名も、かねがね承知致して居ります。土岐氏においてそのおつもりなら、スッパリ何事もあなた任かせ!」
「ま、任せて下さるか……」
 弥左衛門喜んで辞儀をした。
「それでは何より真っ先に、抜いた白刃を元の鞘へ」
「よろしゅうござる」と土岐与左衛門、部下の一同を見廻したが、
「な、方々聞かれるような次第、さあさあ刀をお納め下され」と自身パッチリ鞘に納める。
「貴殿方にも」と十三郎「刀をお納めなさるがよろしい」――で、パッチリと鞘に納める。
 血の雨の降るべき大修羅場は、こうして平和に治まったのである。
「こうなったのもこの釣鐘が私に役立たせてくれたからで、目出度い釣鐘、有難い釣鐘、さあさあそれでは元の座へ」
 龍頭を掴むとグ――ッと引き上げ、肩へ[#「肩へ」は底本では「肩え」]担ぐと弥左衛門、だし[#「だし」に傍点]の上へそっと置いた。
「さあさあ皆さん景気よく、奉納寄進しておくんなせえ」
 声を掛けると美しい女や男達、ドッと喜びの声を上げ、すぐに続けて賑やかな囃、それからだし[#「だし」に傍点]を引き出した。無事に寄進が出来たのである。
 見ていた群集も賞讃し、
「釣鐘様! 弥左衛門様!」
「釣鐘の親分! 釣鐘弥左衛門!」
 ――爾来人々弥左衛門を、釣鐘弥左衛門と称したが、それ程の釣鐘弥左衛門も、兄分と立てなければ[#「なければ」は底本では「なけれは」]ならなかった[#「ならなかった」は底本では「ならなっかた」]のは、緋鯉《ひごい》の藤兵衛という町奴であった。






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