国枝史郎「加利福尼亜の宝島」(25) (かりふぉるにあ)


国枝史郎「加利福尼亜の宝島(カリフォルニアのたからじま)」(25)


        二十五

「地下へ行く道があるんだって? そいつを僕に教えておくれ。そうして二人は地下へ行こうよ」
 ジョン少年はこう云った。
「ああいいとも、教えてあげよう」
 大和日出夫は喜んだ。それから彼は先へ立って、ジョン少年を案内した。
 館を出ると荒野である。二人は荒野を歩いて行く。
 やがて一つの空井戸へ出た。空井戸だから水がない。そうして井戸の一方の側《がわ》に不細工に出来た階段がある。
「ね、ここにある階段ね。これが地下へ行く道なのさ」日出夫は云って指差した。
「それじゃここから下りて行こうよ」
「では僕が先へ行こう」
 で、日出夫が先に立ち、その後からジョンが続き、空井戸を下へ下りて行った。
 間もなく二人は底へ着いた。細い横穴が通じている。それを二少年は辿って行く。
 道は案外平坦で山もなければ坂もない。ただ暗いのが欠点である。
 二人はドンドン走って行く。
 二時間余りも走った頃、行く手に当たって人声がした。
「いよいよ地下の国へ着いたようだな」
「土人どもが騒いでいる」
「気を付けて行こうぜ」「そっと行こうよ」
 二人は互いに戒《いまし》め合い、足音を忍んで近寄って行った。

 小豆島紋太夫とホーキン氏とが、前後に大敵を引き受けて進退全くきわまったことは、既に書き記したが、さてその後どうしたかと云うに、他に手段もなかったので小豆島紋太夫はオンコッコ軍に向かい、またホーキン氏は地下人軍に向かい、悪戦苦闘をしたものである。
 ワッワッという叫び声、悲鳴、掛け声、打ち物の音、狭い地下道は一瞬にして地獄のような修羅場となったが、その中で紋太夫は十五人、ホーキン氏は十人の敵を生死は知らず切り伏せた。
 これには土人軍も辟易したが、ド、ド、ド、ドと一度に崩れを打ち、元来た方へ引き返したが、しかしすっかり逃げたのではなく、一時退却したまでである。
 こなた二人はホッとしたが、さすがに体は疲労《つか》れていた。
「さてこれからどうしたものだ」こう云ったのはホーキン氏である。
「いずれすぐに盛り返して来よう。戦うより仕方がない」紋太夫は憮然《ぶぜん》として云った。
「さよう、戦うより仕方あるまい。敵は大勢味方は二人、とてもこっちに勝ち目はないな」ホーキン氏は暗然とした。
「そうばかりも云われない」紋太夫は故意《わざ》と元気に、「世には天祐というものがある」
「俺はそんなものは認めない」ホーキン氏は冷ややかに、「それは憐れむべき迷信だ」
「いやいや決して迷信ではない。日本には沢山例がある」
「いや迷信だ。非科学だ。合理的とは認められぬ」
「西洋流の解釈だな」
「そうして正しい解釈だ」
「しかしそいつはまだ解らぬ。……や、来た来た盛り返して来たぞ。議論をしている暇はない」
「うん、来たな。サア戦争だ」
 二人はそこで以前《まえ》のように前後の敵に向かうことにした。
 衆を頼んだオンコッコ軍はひたひた[#「ひたひた」に傍点]と紋太夫へ攻め寄せる。
 ビクともしない紋太夫は、ピッタリ岩壁へ体をくっ付け、しばらく敵を睨んでいたが、パッと敵の中へ飛び込むと、やにわに二人を切り伏せた。そうして次の瞬間にはピッタリ岩壁へ身を寄せた。と、またパッと飛び込むと同じく二人を切り仆し、仆した瞬間には彼の体は既に岩壁へくっ付いている。
 六人、八人、十人と、見る見る土人は切り仆されたが、紋太夫も体へ一、二箇所傷を負わざるを得なかった。
 この凄まじい太刀風にまたもや土人軍は退却したが、その時忽然地下道を震わせ轟然たる大音響が鳴り渡り、それと同時にその時まで雲霞《うんか》のように集まっていたオンコッコ軍が数を尽くしバタバタと地上へ転がった。
 濛々と立ち上る黄色い煙り、プンと鼻を刺す煙硝の匂い、誰か爆弾を投げたと見える。
 あまりの意外に紋太夫は、驚きの眼を見張ったまま暫時《ざんじ》茫然と佇《たたず》んでいたが、忽ち煙硝を分け、二人の少年が現われたのを見ると、さらに驚きを二倍にした。
 その少年こそ他ならぬジョン少年と日出夫である。



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