国枝史郎「加利福尼亜の宝島」(29) (かりふぉるにあ)


国枝史郎「加利福尼亜の宝島(カリフォルニアのたからじま)」(29)


        二十九

「やッしまった、烏が消えた!」ジョンは驚いて叫び声を上げた。
「まあ待ちたまえ、考えがある」
 日出夫少年は腕を組み何やらじっと考えこんだが、
「ねえ、ジョン君、こう思うのだよ、理由《わけ》なしに烏が消える筈がない。消えるには消えるだけの理由があろう。いや理由がなければならないとね」
「ああ、そうとも、理由がなければならない」
「で、僕は思うのだがね、あの断崖の裾の辺に、何か秘密があるのだろうとね」
「ああなるほど、そうかもしれないね」
「恐らく洞窟《ほらあな》でもあるのだろう」
「ああなるほど、そうかもしれないね」
「しかも普通の洞窟ではない」
「そんな事までは解らないよ」
「いや僕は断言してもいい。きっと普通の洞窟ではない。非常に価値《ねうち》のある洞窟だよ」
「どうしてそんな事云えるだろう?」
「云えるだけの理由があるからさ」
「僕にはちっともわからない」
「君は浮き岩をどう思うね」日出夫少年は真面目《まじめ》に云った。
「天工と思うかね? 人工と思うかね?」
「それはもちろん天工だろう」
「ところが、あいつ[#「あいつ」に傍点]は人工なのだ」
「どういうところから発見したね?」ジョン少年は不思議そうに訊いた。
「見たまえ、鎖《くさり》が見えるじゃないか」
 こう云いながら日出夫少年は、二つの岩に挟まれている蒼い水を指差した。
 なるほど、そう云えば鎖が見える。すっかり錆びて赤くなり、そこへ海草がまとっているので、一見岩と見紛うけれどもまさしく太い鎖であった。
「ああなるほど、太い鎖だ!」ジョン少年は感動した。
「鎖で繋いであるのだからこの浮き岩は人工だよ」日出夫はさらに説明した。「こんな大掛かりの浮き岩を人工で作ったというのは、決して冗談や好奇心《おもいつき》からではあるまい。きっと必要があったからさ」
「その解釈は胸に落ちるね」
「そこで僕はこう思うのだよ、人工の浮き岩を作ったのは、何かを防禦《ぼうぎょ》するためだとね」
「ははあなるほど、そうかもしれない」
「つまり、洞窟《ほらあな》が大事だからだ。洞窟に価値《ねうち》があるからだ。で、その洞窟へ泥棒どもを侵入させないそのために、浮き岩なる物が作られたのさ」
「そうだそうだ、それに違いない!」ジョン少年は手を拍った。
「では早速行って見ようや」
「よかろう」
 と云うと日出夫少年は、櫂《かい》へグイと力をこめた。
 随分危険ではあった。けれど冒険に慣れている二少年はそれでもとうとう断崖の裾へ、自分達の小舟を寄せることが出来た。
 はたして想像をした通りそこに洞窟の口があった。
 二人はすっかり元気付き、その口から舟を入れた。と二人の眼の前へ、狭い水路が現われた。水路は遠くまで続いていた。
 二人はズンズン舟を進めた。舟が進むに従って水路は次第に広くなり、やがて一つの湾へ出た。
 湾の円周五丁もあろうか、その中央と思われる辺に小さな島が浮き出ていた。
「やあ小《ちっ》ちゃい島があらあ」
「おやおや烏があんな所にいるよ」
 一本足の大烏が、島の頂の木の枝で、羽根を畳んで休んでいた。
 二少年は舟を出て、島の渚《なぎさ》へ下り立った。
 島は美しく可愛らしく周囲一町もなさそうであった。
「これが伝説の宝島だろう」
「そうだそれに違いない」
「大急ぎで宝を目付けようぜ」
「よしきた、目付けよう、競争だ!」
 そこで二人は走り廻った。
 日出夫少年は頂上を目がけ兎のように駈け上がった。そうしてそこで目付けたのは巨大な鉄の箱であった。腐蝕した穴から黄金の光が燦然《さんぜん》と彼の眼《まなこ》を射た。
「目付けた!」
 と彼は歓喜の声を湾一杯に響かせた。そうだ、彼は目付けたのであった。それこそ伝説に語られてある「チブロン島の宝庫」なのであった。
 そこで二人は舟へ乗り、急いで外海へ出ようとした。
「おや、あんな所に階段があるよ!」
 こう云いながらジョン少年は、湾をグルリと囲繞《とりま》いていた洞窟《ほらあな》の内壁を指差した。
 洞窟の内壁を上の方で斜めに階段が出来ていた。その上層は闇に鎖ざされほとんど見ることが出来なかった。
 好奇心の強い二少年がこれを見遁がす訳がない。二人は舟を岸へ着けると揃って階段を上へ登った。



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